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プライベートバンクの資産保全とはどういうことか

 

 「資産を保全する」とは、どういう意味でしょうか。仮に土地の所有権を持ち続けていたとしても、その土地が荒れ放題で、やがて不法投棄された廃棄物でいっぱいになっていたとしたら、「資産が保全されている」とはとても言えません。

 金融の世界でも同じことです。仮に1億円の「タンス預金」があって10年の間は盗難に遭わなかったとしても、その間に物価が2倍になっていたとしたら、実質的な資産価値は半分になったということです。

あるいは、その10年の間に円安が進んで1ドル80円が160円になっていたとしたら、ドルベースでの価値が半減したということになります。また、仮に為替レートに変化がなくても海外の物価が2倍になっていれば、やはり実質価値が失われたというほかありません。

 つまり、不動産でも金融資産であっても、「ほったらかし」の状態で持っていたとしたら「資産の保全」にはならないのです。

 

 スイスのプライベートバンクは、そのことをよく心得ています。現在の1億円と10年後の1億円の価値は同じではありません。10年後の1億円は、少なくとも物価の上昇分は増えていなければ現在の1億円と同じにはならないのです。

1億円が何年たっても1億円のままだというのは「ほったらかし」と同じことであり、「資産が保全されている」とは言えないのです。

ですから、スイスのプライベートバンクが資産の保全について語るとき、そのスタンスがいかに保守的であるとしても、ある程度のリスクをとり、資産を増やすことを想定しています。増やしてこその保全であるからです。

 

 もちろん、リスクをとれば、一時的に価値が下落することもあります。金融の世界では、まさに、上下の方向にぶれる可能性のことを「リスク」と呼ぶからです。

決して額面価値の変わらない「タンス預金」は正に「無リスク」の状態であると言えるかも知れません。けれども、名目的には無リスクであっても、タンス預金の実質価値は着実に劣化していきます。ちょうどモノが腐っていくようなもので、変化は劣化の方向にしか進みません。

その意味で、タンス預金は「死んでいる」のです。これを再び「生かす」には、多少ともリスクをとるしかありません。

 

 現在、先進国の中央銀行の多くは2パーセント程度のインフレ目標を設定しており、日本もこれに追随しています。インフレ目標の達成により経済の活性化につながるなら結構なことですが、気になるのは2パーセントのインフレになったとして、預金金利はどうなるかということです。

預金金利が2パーセントを超えることは期待できるでしょうか。利回りがインフレ率に負けるとしたら、銀行預金も「資産を生かす方法」であるとは言えないでしょう。

 

 スイスのプライベートバンクによる「資産の保全」とは、資産を生かすために「必要なリスク」をとり、その一方で、資産を毀損する可能性のある「不必要なリスク」はとらないということです。また、「リスクに見合ったリターン」を顧客に還元するために経営を合理化するということです。簡単なようですが、一般的な商業銀行ではなかなかこれができません。宣伝費、貸し倒れリスク、少額口座の管理などの高コスト要因を抱えているので、あるときはハイリスクの目新しい金融商品で顧客を釣ろうとしたり、顧客資産の成長を妨げるほどの高額の手数料を設定したりしてしまうのです。

そのようなビジネスは、スイスのプライベートバンクによる「資産の保全」とは本質的に異なります。

 日本経済の近未来は、円高によるデフレか、円安によるインフレか、まだはっきりした像は見えてきません。けれども、デフレの道に進むなら経済の体力は弱くなり、インフレに振れれば円建ての金融資産は目減りするでしょう。

もうそろそろ「資産の保全」について真剣に考えなければならない時に来ているのです。

 

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