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プライベートバンキングに適している国や地域はどこか?

 

 どのような条件を備えている国や地域が、プライベートバンキングに適していると言えるのでしょうか。

一般的には、1)政治的、経済的に安定していること、2)通貨が安定していること、3)税制が好ましいこと、4)投資家保護が徹底していること、5)銀行・金融制度の規制緩和がすすんでいること、6)政府及び法制度が銀行の守秘性を尊重していること。などの条件が挙げられています。それはそれで確かなことなのですが、このような条件すべてを備えていても、プライベートバンキングが根付かない国、あまり機能しない国、あるいはプライベートバンキングの将来が危ぶまれる国がないわけではありません。

それでは、これらの一般的な条件に加えて、どのような条件を備えた国や地域が、プライベートバンキングに相応しい、あるいは相応しくないのでしょうか、考えてみましょう。

 

 A. 「見ず知らずの人に誠実たれ」というモラルが浸透している国ほど、プライベートバンキングに相応しい。

 戦乱の時代でもあった近世ヨーロッパで傭兵の供出国であったスイスでは、契約に従い、「見ず知らずの国のためであっても生命を賭して戦う」というモラルが発達してきました。このモラルが、外国()との取引に際してスイスが絶大な信頼を得てきた礎となっています。

 これに対して、このようなモラルが浸透していない社会では、相手がアカの他人であれば、自分たちが儲けるために多少の迷惑をかけても構わないという風潮になりがちです。金融の世界で言えば、顧客資産を保全しようとする意識が希薄で、丁重な接客態度とは裏腹に顧客に必要以上のリスクを負わせようとするビジネスがはびこります。これでは、「プライベートバンキング」といっても名ばかりのものでしょう。

 「見ず知らずの人に誠実でない」社会では、住宅販売といった「リピーターの少ない取引」や「素人には窺い知れないノウハウのあるビジネス」でトラブルが頻発するため、政府の規制がきつくなる傾向がみられます。そのほか、「ウチ・ソト」の意識が強く、実力よりコネが物を言うような社会ほど、「見ず知らずの人に誠実でない」社会と言えるでしょう。

 

 B. 「大国」はプライベートバンキングに相応しくない。適度な規模の小国が相応しい。

 日本では「大きいところほど安心」と思われがちですが、「大国」あるいは「大国主義」に陥っている国ほど、敵をつくりやすいのです。そのような大国の銀行に資金を預けると、国際情勢の変化によっては「敵国側の資金」とみなされて、凍結、あるいは封鎖されてしまうかも知れません。また、そのような大国とコバンザメみたいにくっついている国や、同盟関係にあって「ノーと言えない国」でも同じことが起こり得ます。

 スイスのような賢い「小国」は敵をつくりません。敵をつくっても何もいいことはありません。そもそも小国は敵をつくると生き残れないため、いかに敵をつくらずに立ち回るかというノウハウを蓄積した歴史をもっています。

 けれども「敵をつくらない」ということは、「味方をつくらない」ということでもあります。だとすれば、いかに「小国」といっても、すぐさま占領されたり、経済封鎖されたりする程度の規模の国では不安なので、適度な規模をもつ中小国が、プライベートバンキングには相応しいと言えます。

 

 C. 政府や規制当局の影響力が強すぎる国は、プライベートバンキングに相応しくない。

 「見ず知らずの人に誠実たれ」というモラルが社会に浸透していない国では、放っておくと悪徳業者がはびこります。すると、「投資家保護」「消費者保護」という名目の下に規制が強化されてしまうことがあります。

金融機関が規制を遵守するには費用がかかりますから、業界は全体として高コスト体質になります。すると手数料が高くなる上に、会社が顧客の利益より規制当局の顔色ばかり気にするようになるので、さらにサービスが低下します。一般に、規制強化は、大手企業にとって有利にはたらきますから、業界の寡占化がすすみ、そのためさらに手数料が高くなるなど、顧客にとっては不利になります。

このような国では、プライベートバンキングがビジネスとして発展しにくいのは明らかです。

 

 このように考えると、中華文化圏をはじめとする東洋諸国の大部分、アメリカ、イギリスなどもプライベートバンキングにとっては最適でないということになるでしょう。シンガポールは微妙ですが、香港は明らかに中国の影響が強すぎます。日本はどうでしょうか。

 プライベートバンキングにとって必要な条件は、単に政治的・経済的なものではなく、人々の意識やモラルも含まれます。これは国の歴史や文化ともかかわり、一朝一夕に準備できるというものではありません。その意味でも、プライベートバンキングの発祥の地であるスイスこそ、もっともそれに相応しいと言えるでしょう。

 

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