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プライベートバンカーの職業倫理

 

「銀行がないのに銀行員はいる」(??)

 このサイトでも繰り返し述べているように、日本にはスイスと同様の意味における「プライベートバンク」というものは存在していない。にもかかわらず、自称、他称によらず「プライベートバンカー」と称する人たちがいるのは、「銀行がないのに銀行員はいる」とでもいうような異様な光景だ。

これに拍車をかけるかのごとく、最近「プライベートバンカー」資格なるものが出てきたもようである。日本証券アナリスト協会が鳴り物入りで宣伝している民間資格だ。

試験の合格者に資格を与えたところで、「プライベートバンクが存在しない」という事実はいかんともし難いだろう。だが、「誰でもプライベートバンカーを名乗れる」という現状に対する一定の歯止めにはなるのかも知れない。

 

「プライベートバンカー = ファイナンシャル・プランナー」か

その日本証券アナリスト協会が出している「プライベートバンカー」資格試験のテキストを読むと、「プライベートバンカー」なるものが日本でどのように捉えられているのかがよくわかる。簡単に言えば、資産の承継・相続まで含めた富裕層向けのファイナンシャル・プランナーのようなものだ。

果たして「プライベートバンカー」は、「ファイナンシャル・プランナー」でいいのか。そのことを論ずると長くなるが、それとは別に、この資格については、一点、どうしても気になる箇所がある。

それは「プライベートバンカーの職業倫理」に関する部分である。それというのも、テキストに書かれている「職業倫理(利益相反)」なるものは、「プライベートバンカー」が「個人として」保有する株式や投資信託を顧客に推奨したり、「個人として」顧客と取引したりするさいの注意事項だけであって、その「プライベートバンカー」が所属する「会社」と顧客との間における利益相反に関しては一切触れられていないからだ。

 

「顧客」と「会社」のどちらを優先するべきなのか

言うまでもなく、「プライベートバンカー」が「個人として」保有する株式や投資信託を顧客に推奨して自己利益をはかったり、顧客に損失を与えたりするなどというのは、よほど悪質なケースに属する。倫理的により悩ましく、しかもありふれた問題というのは、「会社」と「顧客」の利益が相反する場合に、「プライベートバンカー」としてどのように行動するのが正しいのか、ということであるはずである。

証券会社に属する「プライベートバンカー」が会社の推奨する銘柄を勧めるべきか否かなどという問題は、まだ序の口である。それ以外にも、例えば、大手銀行に属する「プライベートバンカー」であれば、顧客の経営する会社が自行の融資部門から事業融資を受けている場合などに、自社と顧客との間に深刻な利益相反が生じる可能性がある。そのような場合、顧客資産のすべてを把握しているはずのプライベートバンカーは、「顧客」と「会社」のどちらの利益を優先して行動するべきなのか。資格試験テキストは何も語ってくれないのである。

 

顧客との利益相反をできる限り解消した業態

けれども、考えてみればこれは当然のことだとも言える。「プライベートバンカー」が会社に属している以上、会社と顧客に利益相反があっても何もなす術はないからだ。要するに、「顧客との利益相反をできる限り解消する」ことを会社に期待する以外のことはできないのである。

つまり、より根本的な「顧客と会社との利益相反」をどうにかしない限り、「プライベートバンカーの職業倫理」などと言っても空言を弄するに等しいのだ。

一方、金融の世界において「顧客との利益相反をできる限り解消した」ものがスイスにおけるプライベートバンクという業態である。

プライベートバンクは銀行でありながら「原則として融資はしない」というのが、そのひとつの表れだといえるだろう。

日本では「プライベートバンクが存在しないところに、プライベートバンカーがいる」という異様な状況にあるのは冒頭に指摘した通りである。いわば、「プライベートバンカー」「プライベートバンキング」という言葉が、根無し草のように一人歩きしているのだ。

そのために、「職業倫理」一つとっても矛盾を生じざるを得ないことは、スイスの事情と比較すればいっそう明らかなのである。

 

 

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