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スイス銀行と金融危機

 

 アメリカのサブプライム・ローン問題に端を発する金融危機を、スイスの銀行といえども免れたわけではありません。

 とりわけ大きな影響を受けたのは大手の商業銀行でした。例えば、スイス最大の銀行であるUBSは、政府から公的資金の注入を受けました。UBSは以前からアメリカ的な金融手法に染まり、投資銀行のような「スイスらしくない」ビジネスを展開していたのですが、それが裏目に出た形でした。

 

 一方、「スイスらしい銀行ビジネス」の典型であるプライベートバンクへの影響は軽微でした。プライベートバンクは、投資銀行のように自己資金でリスクのある取引などはしないし、商業銀行と異なり事業資金へのローン貸し出しなどもしないからです。

プライベートバンクの収益構造は、顧客の資産運用とそれに伴うサービスの手数料が中心です。もちろん金融危機になって預かり資産が減少すれば、それに応じて収益が減少することは避けられませんが、「損失」が出るわけではありません。その意味で、マイナスにはなりにくい性質のビジネスだと言えるでしょう。

 金融危機に際しても、プライベートバンクに支えられているスイスの金融業界はしたたかに強く、スイスの危機は早く収束に向かいました。日本で報道されたUBSの問題も大事には至らなかっただけでなく、スイス政府はUBSに投入した公的資金のおかげで、かえって利益を得たということです。

 

 とはいうものの、欧州の金融危機はまだ出口が見えない状況にあります。

周囲をEUに囲まれたスイスが、その影響を受けないということはありません。

しかし、それは主として「スイス・フラン高」による影響です。欧州の金融危機はユーロ安をもたらし、それによるスイス・フラン高がスイスを苦しめているのです。

 ヨーロッパの為替相場では、ユーロ危機のせいでユーロが売られ、健全とみなされるスイスの通貨が買われているために、「ユーロは安く、スイス・フランは高く」という圧力がかかりやすくなっています。

日本の円高と同じように、スイス・フラン高は、スイスの輸出産業に打撃を与えています。これに対処するため、スイスの中央銀行は無制限の為替介入を打ち出しました。

遠く日本から見ると、ユーロ圏に囲まれたスイスは、経済的にもヨーロッパの一部のように錯覚してしまいがちです。けれども、ユーロ圏とスイスは、相互に影響しながらも異なる経済圏です。

ヨーロッパの非ユーロ諸国の中でも、とりわけスイスは、金融危機をいち早く脱したということもあり、今や「危機からの避難所」としての性格を強めつつあると言えるでしょう。

 

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