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日本でプライベートバンキングは可能か?
日本では、長期不況で事業融資のノウハウを失った銀行や、ネット証券に顧客を奪われた大手証券会社が「プライベートバンキング」に活路を見出そうとしているそうです。
かくして、メガバンクの行員、証券会社のセールスマンまでが「プライベートバンカー」を名乗り、個人営業の投資コンサルタントである自称「プライベートバンカー」などと入り乱れて顧客を奪い合っているというのが、「日本のプライベートバンキング」の現状です。
けれども、そもそも日本で、プライベートバンキングが可能なのか、疑問だと言わざるを得ないのです。
それというのも、日本では、これまでも「プライベートバンキング」と称して、「口座残高に課金する、コンサルティング機能を含む資産運用サービス」を試みる会社や金融機関はいくつもありました。
けれども、成功事例と言えるものは一つもないのです。
それはなぜでしょうか。
それには、「制度」と「文化」という二つの要因があると思います。
まず、「制度」の面から考えてみましょう。
日本におけるプライベートバンキングの歴史は長くありませんが、その中で唯一、勢いがあったと言えるのは、かつてのシティバンクのプライベートバンキング・サービスでした。ところが、よく知られているように、シティバンクのプライベートバンキング部門は2004年に金融庁の処分を受け、日本からの撤退に追い込まれました。このシティバンクの失敗を分析することによって、「日本でプライベートバンキングが根付かない理由」を探ることができます。
シティバンクに対する処分の理由はいくつかありました。そのなかでも注目するべきものとして、シティバンクのプライベートバンキング部門が顧客の不動産取引や美術品取引などの非金融取引と関わっていたため、これが日本の銀行法に抵触したということが挙げられています。
しかしながら、本来のプライベートバンキングは「顧客資産の全体」にかかわるべきものです。「資産全体」ということは、当然ながらそこには非金融資産も含まれます。
ところが日本の銀行法の下では、銀行は不動産どころか顧客の株式取引にさえ関与することができないのです。
「プライベートバンキング」というからには、「顧客資産の全容」が視野に入っていなくてはなりません。それなのに日本の法律では、金融機関が扱える資産は限られてしまうわけです。
この重大な制約にもかかわらず、「日本的なプライベートバンキング」を目指す金融界は、銀行、証券、不動産といったグループ会社を総動員して顧客資産にアプローチしようとしているようです。
ところが、グループとはいえ互いに思惑の異なる企業同士で連携しようとしても、統制がとれるはずもありません。結果的に、群がるように寄ってたかって「顧客資産を食い物にしようとする」のは必定。スイスと異なり、日本では「番号口座(ナンバー・アカウント)」によって顧客情報が守られているわけではありませんから、多方面からのセールス合戦が顧客資産を毀損する危険性が高まります。
一方、プライベートバンキングの理念からすれば、銀行と証券会社どころか、同じ銀行の法人部門と個人部門でさえ、顧客情報を共有してはならないはずです。
プライベートバンキングでは、プライベートバンカーが顧客資産の全容を把握していることが原則ですから、その情報が法人部門に共有されれば、銀行は事業オーナーの個人資産の状態を見ながら事業融資を押し込んだり引き上げたりすることが可能になるからです。これもまた顧客資産を毀損する可能性が高いと言えます。
そのような事態を防止する意味からも、「番号口座」とはプライベートバンクに必須の条件でなのです。
従って、「番号口座(ナンバー・アカウント)」の制度がない日本の金融機関で、プライベートバンキングが十全に機能するとは考えにくいと思います。
日本の金融機関に、「プライベートバンキングを支える文化」がないことは、さらに深刻です。
最近、ある大手証券会社の社員であった女性の回想を読む機会がありました。それにはこう書かれています。
「社内暴力や洗脳に近い長期研修には疑問を覚えた。外部からの情報が遮断された隔離環境で、切々と土下座営業の美学を説かれた。深夜の自由時間に禁止されていたテレビを見ていたことを咎められ、6時間立たされ、同期の男性は殴られ、「おまえらに人権はない」と怒鳴られ・・・」(『人生のつくり方』サンマーク出版)
人間としての尊厳を踏みにじられた者は、自尊心を失うとともに良心が麻痺し、いつしか他人の尊厳をも平然と踏みにじるようになるでしょう。こうして良心が麻痺した営業マンは、顧客に損失を与えるであろう金融商品を平気で推奨し、案の定損失が生じたとしても良心の呵責を覚えることもなく、平然と次の商品を奨めることになります。これは大昔の話ではありません。現在では多少ましになっているかも知れませんが、日本の金融機関がこのような体質を引きずっていることは間違いないことです。
文化は一朝一夕に変わるものではありません。「回転売買」で稼げなくなったからといって、急に「顧客本位」に舵を切れと言われても無理な話ではないでしょうか。
さて、ここで再びシティバンクのプライベートバンキング部門の話題に戻りましょう。金融庁によるシティバンク処分の理由として、「顧客に十分なリスクの説明を怠った」など、利益偏重の姿勢もありました。これは一見いかにもアメリカ的な態度のように見えますし、後のサブプライム問題、リーマン・ショック後の金融危機への伏線という解釈も可能かも知れません。
けれども、これは決してシティバンクという「外資系銀行」に特有のものではなかったのです。
それというのも、日本の金融機関では、シティバンク撤退の後も、富裕層顧客に対して、デリバティブを組み込んだ「複雑でリスクの高い金融商品の販売」を行なうのがプライベートバンキング・ビジネスの主流であり、それは「顧客のニーズを踏まえた提案ではなかった」(野村総合研究所『プライベートバンキング戦略』)からです。ある経済学者によると、その悪質さは、ある意味で、英米系の銀行に輪をかけたようなものでした。というのは、英米系の投資銀行は「自ら」リスクをとったのに対して、「日本の金融機関は、自らはリスクをとらず、顧客にリスクを負わせた」。それこそが「日本の金融機関に対して金融危機の影響が軽微であった理由だ」というのです。
このような体質の日本の金融機関に、果たしてプライベートバンキングなど可能なのでしょうか。
このサイトで繰り返し述べていることですが、プライベートバンキングとは、単に制度や手法のことではなく、文化やモラルに依存したビジネスです。プライベートバンキングの母国であるスイスに典型的に見られるように「見知らぬ人たち(外国人)に対して誠実であれ」というモラルが社会に浸透していてこそ可能となり、社会に根付くことができるビジネスなのです。
果たして、日本にその条件が備わっているでしょうか。
ところが、文化を異にする外資系の金融機関であれば、日本においても本来のプライベートバンキング・サービスを提供できるかと言えば、話はそう簡単ではありません。
実際、これまでシティバンク以外にも、英米系を中心にいくつかの外資系金融機関が日本でプライベートバンキングのビジネスを試みてきました。けれども、いずれも成功していません。
その一つの理由として、上に見た日本の銀行法の規定が足かせになって総合的なサービスが展開できないことがあります。また、英米的な金儲け主義を信奉する金融機関は、「儲かりそうだ」と思えばいち早く進出しますが、「儲かりそうにない」と見るやたちまち撤退してしまいます。これは本来「世代を超えた資産の承継」をも視野に入れた息の長いサービスであるはずのプライベートバンキングとは相容れない態度だと言わざるを得ません。撤退されたが最後、顧客の資金は行き場を失ってしまうからです。
これに対して、スイスの本格的なプライベートバンクの多くは、日本に進出すらしませんでした。
その理由は、やはり日本の銀行法であるようです。日本の富裕層マーケットは、アメリカに次いで世界で二番目に大きいと言われていますが、その事実はスイスの銀行界にも知られています。けれども、日本の銀行法が変わらない限り、日本に進出しても本格的なプライベートバンキングのサービスを提供することは不可能だ、とスイスの銀行の多くは判断しているのです。
そのようなスイスのプライベートバンクの多くは、一部の例外はあるものの、「本格的なプライベートバンクのサービスをご希望であれば、(一時的にせよ)日本国外に出て下さい」というスタンスをとっています。海外旅行をするだけでも、省庁と業界を利するだけの無用の規制から逃れることができます。そのついでにスイスに立ち寄られることがあれば、本物のプライベートバンキングを体験することができるのです。
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